介護
2025.05.30 作成
2025.05.30 更新
介護される親との距離感、どう保つ?“イライラしない接し方”のコツ
日々の介護が想像以上に大変で、ついイライラして強い口調になり後悔しています。対処法はありますか?
目次
- 1. イライラは自然な感情
- 2. 親との関係でイライラする3つの理由
- 2-1. 立場が逆転することで起こる違和感
- 2-2. 子どもとしての気持ちと介護者としての責任の板挟み
- 2-3. 親への期待が強すぎる
- 3. 介護される親にも本音がある
- 4. イライラを防ぐ!距離感の保ち方・接し方の4つのコツ
- 4-1. 「やってあげる」ではなく「できることをサポートする」
- 4-2. 頼まれるのを待つ
- 4-3. 親との会話をコントロールしようとしない
- 4-4. 介護のスイッチをオンオフできる時間割を作る
- 5. 自分を守るために外とのつながりを利用する3ステップ
- 5-1. ステップ1:ひとりで抱え込まず相談先を見つける
- 5-2. ステップ2:任せられるところはプロに任せる
- 5-3. ステップ3:第三者を利用して良好な関係を維持する
- 6. イライラしたときの3つの対処法
- 6-1. 感情の整理法を知っておく
- 6-2. 自分なりの回復術を持っておく
- 6-3. 心の疲れを溜めない習慣を作っておく
- 7. まとめ:適切な距離が、優しさを長続きさせる
専門家の回答
イライラは自然な感情

介護をしていると、親に対してイライラしてしまう場面は誰にでも起こり得ます。
以下のような感情を抱くことも少なくありません。
- 「私がこんなに頑張っているのに、まったく感謝されない」といった報われない虚しさ
- 「言うことを聞いてくれなくて困る」と親が思い通りに動いてくれないストレス
しかし、こうしたイライラは自然な感情です。どんなに優しい人でも怒りの感情が完全になくなるわけではありません。
大切なのは、その感情とどう向き合い、対処していくかということです。イライラの対処法を知り、感情をうまくコントロールできるようになると、不思議と心に余裕が生まれます。
心に余裕ができれば、笑顔で親と接する時間も増え、「イライラしてしまう自分はダメだ」といった罪悪感にとらわれることも少なくなるでしょう。
親との関係でイライラする3つの理由
介護中に親との関係でイライラしてしまうのには、以下のような理由が考えられます。
- 立場が逆転することで起こる違和感
- 子どもとしての気持ちと介護者としての責任の板挟み
- 親への期待が強すぎる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
立場が逆転することで起こる違和感
親子関係では、長い間「親が世話をする側」「子どもが世話を受ける側」という役割が続いてきました。
しかし、介護が必要になると立場は一転し、親が世話を受ける側、子どもが世話をする側になることに大きな戸惑いを感じる人は少なくありません。
もともと尊敬し、頼りにしていた親が介護を必要としている姿を見ると、「今度は私がしっかり支えなければ」というプレッシャーを必要以上に感じることもあるでしょう。
その一方で、子どもとしての意識が残ったままで、どう接していいか分からずにイライラしてしまうケースもあります。
こうした立場の逆転による慣れない状況は、誰にとっても大きなストレスです。
子どもとしての気持ちと介護者としての責任の板挟み
介護をしている最中でも、「もっと親に甘えたい」「親から認められたい」といった子どもとしての気持ちは残っています。
一方で、介護者としては「きちんとサポートをしなければならない」という強い責任感に駆られます。
この「子どもとしての気持ち」と「介護者としての責任感」の板挟みは、思っている以上に精神的な負担です。
そんなときは少し立ち止まり、「私は子どもとしての気持ちも大切にしているんだな」と受け止めながら、自分の心にも目を向けることが重要です。
親への期待が強すぎる
無意識のうちに親に対して以下のような期待をしている可能性があります。
「これくらいは分かってくれるはず」
「昔のように自分で動いてくれるはず」
しかし、高齢になり、体力も落ち、認知機能が低下している可能性もある中では、思うようにいかないことがほとんどです。また、子どもからの期待に応えられないことは、親自身にとってもつらいことです。
一度、「私は親にどれくらいの期待をしているのだろう?」と振り返ってみるとよいでしょう。
期待しすぎると、思い通りに動かない親に対して余計にイライラしやすくなります。期待のハードルを少し下げるだけでも、「もう少しゆっくりでいいよね」と心の余裕が生まれます。
介護される親にも本音がある
介護している側はどうしても自分の大変さに目を向けがちですが、実は介護を受ける親側にも本音があります。
「子どもに迷惑をかけて申し訳ない」「何もできない自分がつらい」といった後ろめたさや悲しみの気持ちを抱えていることは少なくありません。
自立して生活していた頃から一転して、子どもの手を借りなくては生活できない現実は、親にとっても受け入れがたいものです。
プライドもあるため、素直に「助けてほしい」と言えず、八つ当たりのように見える態度を取ってしまう親もいます。
表面上の言葉や態度だけに振り回されるのではなく、「親はどんな気持ちでこう言っているのか?」と一歩立ち止まって想像してみることで、イライラを和らげるきっかけになります。
親の本音を推し量ることも、関係を良好に保つポイントです。
イライラを防ぐ!距離感の保ち方・接し方の4つのコツ
イライラを防ぎながら親との距離感を上手に保つためのコツは以下の4つです。
- 「やってあげる」ではなく「できることをサポートする」
- 頼まれるのを待つ
- 親との会話をコントロールしようとしない
- 介護のスイッチをオンオフできる時間割を作る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「やってあげる」ではなく「できることをサポートする」
介護をする側としては、「あれもこれも全部やってあげたほうが親の負担が減るはず」と考えがちです。
しかし、親がまだできることまで奪ってしまうと、本人の自立心や生活能力を損なう可能性があります。
高齢者介護の現場でも「できることは本人にやってもらう」という方針がよく取られます。
親自身も「子どもに全部やってもらうのは申し訳ない」という気持ちを抱えている場合が多いため、黒子のようにそっとサポートする姿勢を意識するといいでしょう。
「親にできることはなるべく親に任せる」という考え方が、結果としてお互いの負担を減らします。
頼まれるのを待つ
「失敗したらかわいそう」「時間がもったいない」という気持ちから、先回りして全てをやってしまう人もいますが、これは介護者自身が疲れ切ってしまう原因のひとつです。
もちろん効率化は必要ですが、何事も完璧にやろうとすると、いつか心が限界を迎えてしまいます。
少しでも余力を残せるよう、「頼まれたときに手伝う」というスタンスを心がけてみてください。
親自身も「子どもにあまり負担をかけたくないから自分で頑張りたい」と思っている場合が多く、声をかけるタイミングを待つだけでも、互いのストレスは軽減されます。
親との会話をコントロールしようとしない
会話の中で正論ばかり押し付けたり、「こうあるべき」と親をコントロールしようとしたりすると、口論に発展しがちです。
もし思い通りに話が進まなくても、「まあいいか」と受け流すゆとりを持つことがイライラを防ぐポイントです。
こちらがイライラしたまま話しかけると相手も不機嫌になり、負の連鎖が始まってしまいます。互いのペースを尊重しながら、落としどころを一緒に模索する姿勢を大切にしてみてください。
親との会話がぎこちないときほど、一歩引いて柔軟に対応することを心がけましょう。
介護のスイッチをオンオフできる時間割を作る
在宅介護は24時間必要なイメージが強いかもしれませんが、常にフル稼働状態では介護者の心と体が持ちません。そこで意識してほしいのが「介護モード」のオンオフをはっきりさせることです。
例えば、デイサービス(通所介護)に親が出かけている時間は自分の趣味に集中したり、外出を楽しんだりしてみましょう。
兄弟や家族の協力が得られるなら、月に1〜3回ほどは「丸一日介護から離れる日」を作るのもおすすめです。ショートステイ(短期入所)などの介護サービスを利用するのも有効な手段です。
「離れる=見捨てる」ではなく、むしろお互いによい関係を保つための方法と考えてみてください。
自分を守るために外とのつながりを利用する3ステップ
イライラを抑えながら長期的に親の介護を続けるためには、介護者自身が自分の心身の健康を維持することが欠かせません。
そのためには外とのつながりが大きな役割を果たします。外とのつながりを利用するためのステップを3段階に分けて解説していきます。
ステップ1:ひとりで抱え込まず相談先を見つける
介護の悩みは、身近な家族や兄弟姉妹はもちろん、地域包括支援センターやケアマネジャーなど、専門家にも相談ができます。
地域包括支援センターは高齢者やその家族が利用できる相談窓口で、要介護認定や介護保険サービスなどの制度を含め、さまざまな情報提供やサポートを行う公的機関です。
「自分だけで我慢しなくては」と抱え込むほど、心は疲弊します。親との関係で生まれた悩みなどを誰かに気持ちを聞いてもらうだけでも、負担が軽くなることがあります。
介護サービスや支援制度を上手に活用することは、決して弱さではなく、長く親の介護を続けるための賢い選択です。
ステップ2:任せられるところはプロに任せる
家族が親の介護するのが当然と思われがちですが、すべてを抱え込む必要はありません。できる限りデイサービスや訪問介護(ホームヘルパー)、ショートステイなどのサービスを活用しましょう。
場合によっては特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの施設利用も選択肢に入れるべきです。
介護者が倒れてしまっては親も自分も共倒れになってしまいます。プロの力を借りることで介護の質を保ちつつ、介護者の負担も減らせます。
親の介護は「ひとりでするもの」ではなく、多くの人の手を借りながら「チームで行うもの」なのです。
ステップ3:第三者を利用して良好な関係を維持する
ヘルパーや看護師、ケアマネジャーなどの専門職だけでなく、近所の人や親しい親戚が定期的に顔を出してくれるだけでも、親が心を開きやすくなることがあります。
いつも二人きりで向き合うと息苦しく感じやすい親子関係も、第三者を交えることで空気が変わり、気分転換にもなるのです。
「自分がすべてやらないと」という思い込みをやわらげるためにも、人を頼ることはとても大切です。結果的に、親の笑顔を引き出すきっかけにもなるでしょう。
イライラしたときの3つの対処法
それでもイライラしてしまったときは以下の対処法を覚えておくのがおすすめです。
- 感情の整理法を知っておく
- 自分なりの回復術を持っておく
- 心の疲れを溜めない習慣を作っておく
1つずつ詳しく見ていきましょう。
感情の整理法を知っておく
イライラした気持ちは心の中に溜め込まず、「外に出す」ことを意識しましょう。家族や友人など信頼できる人がいれば、その人に思い切って親の介護の愚痴を言ってみるのもおすすめです。
もし話せる相手が見つからなければ、紙や日記、スマートフォンのメモなどに思うまま親の介護に対する感情を書き出してみてください。
頭の中だけでグルグル考えるよりも、実際に文字にすることで客観視しやすくなり、心が落ち着きやすくなります。
自分なりの回復術を持っておく
親に対するイライラが強いときは、その場を離れてクールダウンするのが有効です。たとえ同じ家の中でも、別の部屋に移動して気分転換を図るだけで随分違います。
また、深呼吸をするのもおすすめです。具体的には、4秒かけて息を吸い、8秒かけて息を吐く「4-8呼吸」と呼ばれる方法などを試してみてください。
少し余裕があれば、好きな音楽を聴いたり、外に出て軽く散歩をしたりするのも効果的です。
心の疲れを溜めない習慣を作っておく
介護生活はどうしても親に目を向けがちで、自分の疲労に気づきにくくなります。だからこそ、日常の中で「心の疲れを溜めない習慣」を意識的に組み込むことが大切です。
朝のストレッチや夜の入浴時間でリラックスしたり、定期的に友人とランチやお茶をする日を作ったりするのもよいでしょう。
自分に合った方法で、気軽にガス抜きができる環境を持っていると、心に余裕ができます。心の余裕は笑顔につながり、それは介護される親との関係にも必ずよい影響をもたらします。
まとめ:適切な距離が、優しさを長続きさせる
親の介護をしていると、「私が頑張らないと」「正しい世話をしなきゃ」と知らず知らずのうちに肩に力が入ってしまいがちです。けれど、親の介護は根性論や義務感だけで乗り切れるものではありません。
ときには「今日は無理をしない」「ここは他の人に助けてもらう」と柔軟に選択することも重要です。
常に一緒にいるだけが愛情ではなく、時には距離をあけてお互いにリフレッシュすることも親子の絆を深めるための手段です。適切な距離を保つことで、結果的に「優しさを長続きさせる」ことができるでしょう。
ぜひこの記事でご紹介したポイントを参考にしながら、あなたと親御さんにとって心地よい距離の保ち方を模索してみてください。きっと、お互いに笑顔が増える日々が待っているはずです。
出典
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
「介護で親との距離感が分からない」「親の介護でイライラしないコツが知りたい」
という悩みを抱えている人はいるのではないでしょうか?
この悩みは、在宅で家族を介護している多くの人が抱えています。適切な距離感を保つにはイライラの原因や介護される親の気持ちの理解が必要です。
この記事では、イライラの原因や適切な距離感の保ち方・接し方のコツについてわかりやすく解説します。
また、イライラしたときの対処法についても解説をするので、親の介護で距離感やイライラに悩んでいる方の参考になれば幸いです。