80代の母が最近何度もトイレに行くようになり、いつもより元気もありません。本人は「痛くないから大丈夫」と言っていますが、高齢者の尿路感染症は症状が分かりにくいと聞きました。家族はどんな変化に気をつければよいのでしょうか?
病気・症状
目次
- 1. 尿路感染症とは?
- 2. 高齢者では症状が分かりにくいことがあります
- 3. 高齢者の尿路感染症でみられる主な症状
- 3-1. 「何度もトイレへ行く」は気づきのきっかけになる
- 4. 家族が気づきたい「いつもと違う」サイン
- 5. 尿の臭いや濁りだけで尿路感染症とは判断できません
- 6. 尿路感染症につながる生活背景にも目を向けましょう
- 6-1. トイレへ行きたくないために水分を控える
- 6-2. パッド交換や清潔保持が難しくなっている
- 6-3. 尿道カテーテルを使用している
- 7. 膀胱炎から腎盂腎炎へ進むこともあります
- 8. 高齢者の尿路感染症で医療機関へ相談したい症状
- 9. 受診するときに家族が伝えたいこと
- 10. 自宅で家族ができること
- 10-1. 体調と排尿の変化を記録する
- 10-2. 無理のない範囲で水分摂取を確認する
- 10-3. 排泄環境を見直す
- 10-4. 抗菌薬は医師の指示どおり使用する
- 11. 尿路感染症を繰り返す場合は原因を確認しましょう
- 12. よくあるQ&A
- 12-1. 尿が臭いだけでも尿路感染症ですか?
- 12-2. 熱がなくても尿路感染症のことはありますか?
- 12-3. 水をたくさん飲めば尿路感染症は治りますか?
- 12-4. 尿路感染症で急に歩けなくなることはありますか?
- 12-5. 何科を受診すればいいですか?
- 13. まとめ
専門家の回答
尿路感染症とは?

尿路感染症は、尿をつくって体の外へ出すまでの通り道である「尿路」に細菌などが入り、感染を起こした状態です。
尿路には腎臓、尿管、膀胱、尿道などがあり、感染する場所によって膀胱炎や腎盂腎炎などに分けられます。
膀胱炎では、排尿時の痛み、頻尿、尿意が強い、下腹部の違和感などがみられることがあります。
一方、腎臓まで感染が広がる腎盂腎炎では、発熱や悪寒、背中・脇腹の痛み、吐き気や嘔吐などがみられることがあります。
高齢者では症状が分かりにくいことがあります
尿路感染症というと、「おしっこをすると痛い」「何度もトイレへ行く」といった症状を思い浮かべる方も多いと思います。
もちろん、このような排尿症状が出ることもあります。
ただ、高齢者では本人が痛みや違和感をうまく伝えられなかったり、尿の症状よりも全身状態の変化が目立ったりすることがあります。
訪問看護では、「今日は急に歩けない」「なんとなく元気がない」「急に話がかみ合わなくなった」といった相談から受診につながり、感染症が分かったケースもありました。
認知症がある方では排尿時の痛みなどをうまく訴えられず、ご家族から「認知症が急に悪くなったように見える」と相談されることもありました。
急な認知機能や意識の変化、元気のなさ、歩行状態の変化などは、尿路感染症以外にも脱水、薬の影響、別の感染症などさまざまな原因で起こります。
「尿路感染症かもしれない」と決めつけるのではなく、普段と違う変化があれば原因を確認するために医療機関へ相談することが大切です。
高齢者の尿路感染症でみられる主な症状
- 排尿時に痛みや熱い感じがある
- 何度もトイレへ行く
- 急に尿意を感じることが増える
- 尿をした後も残っている感じがする
- 下腹部に痛みや違和感がある
- 血尿がみられる
- 発熱や悪寒がある
- 背中や脇腹に痛みがある
- 吐き気や嘔吐がある
症状の出方は人によって異なります。
また、尿路感染症以外の病気でも同じような症状が出ることがあります。
「何度もトイレへ行く」は気づきのきっかけになる
訪問看護では、ご家族から「最近やたらトイレへ行く」と相談され、受診すると尿路感染症だったケースもありました。
高齢者ではもともと夜間頻尿などがある方もいるため、回数だけで判断せず、「普段より明らかに増えたか」という変化を見ることがポイントです。
頻尿には尿路感染症以外にもさまざまな原因があります。
排尿時の痛み、発熱、尿の変化、全身状態などと合わせて確認しましょう。
家族が気づきたい「いつもと違う」サイン
高齢者の体調変化では、本人の訴えだけでなく、普段の生活と比べて何が変わったかを見ることも大切です。
- いつもより元気がない
- 食事や水分をとらなくなった
- 急に立てない、歩けない
- ぼんやりしている
- 急に会話がかみ合わなくなった
- 落ち着きがなくなった
- トイレの回数が急に増えた
- 排尿を嫌がる、排尿時に痛そうな様子がある
- 尿の色や量などが普段と違う
特に「急にいつもと様子が違う」と感じた場合は、認知症や年齢のせいと決めつけないようにしましょう。

尿の臭いや濁りだけで尿路感染症とは判断できません
尿の臭いがいつもより強い、濁っているなどの変化に家族が気づくことがあります。
訪問看護でも「尿の臭いが強いから膀胱炎では?」と相談を受けることがありましたが、実際には尿路感染症ではなかったケースもあります。
尿の臭いや見た目だけで感染症と決めつけず、排尿時の症状や発熱、普段との違いなどを一緒に確認する必要があります。
高齢者では、尿に細菌がいても尿路感染症の症状がない「無症候性細菌尿」がみられることがあります。
そのため、尿検査で細菌が確認された場合でも、それだけで症状のある尿路感染症と判断できるわけではありません。
特に急な混乱や転倒などがあっても、排尿症状や発熱など感染症を示す所見が乏しい場合には、尿路感染症以外の原因についても評価することが重要です。
尿路感染症につながる生活背景にも目を向けましょう
トイレへ行きたくないために水分を控える
水分摂取が少なくなっている場合は、「もっと水を飲んで」と伝えるだけでなく、なぜ飲みたくないのかを確認してみましょう。
訪問看護では、「水を飲むとトイレへ行きたくなるから」と水分を控えていた方がいました。
トイレまで歩くのが大変だったり、失禁したくなかったりすることが理由で水分を控え、その後膀胱炎などを起こしていたケースもあります。
水分を控えている背景に「トイレへ行くのが大変」という問題があるなら、トイレの環境や介助方法を見直すことも必要です。
ただし、心臓や腎臓の病気などで水分量について指示を受けている方もいます。
水分量を増やす場合は、持病や医師からの指示も確認しましょう。
パッド交換や清潔保持が難しくなっている
尿取りパッドを長時間交換できていなかったり、入浴ができず清潔を保つことが難しくなっていた方もいました。
「自分でトイレへ行けているか」だけでなく、排泄後の処理や清潔保持まで一人でできているかを見ることも大切です。
パッドを適切に交換することや陰部を清潔に保つことは、皮膚トラブルなどを防ぐ上でも大切です。
ただし、「入浴していないから尿路感染症になった」「パッドを交換しなかったから感染した」と一つの原因だけで決めつけることはできません。
自分でパッド交換や入浴が難しくなっている場合は、家族やケアマネジャーに相談し、訪問介護などの支援を検討する方法もあります。
尿道カテーテルを使用している
尿道カテーテルを長期間使用している方では、カテーテルに関連した尿路感染症のリスクがあります。
自宅でカテーテルを使用している場合は、自己判断で抜いたり接続部分を外したりせず、医師や訪問看護師などから指示された方法で管理しましょう。
尿の流れが悪い、発熱がある、体調が普段と違うなど気になる変化がある場合は、主治医や訪問看護師へ相談してください。
膀胱炎から腎盂腎炎へ進むこともあります
膀胱の感染だけでなく、感染が腎臓まで及ぶと腎盂腎炎となり、発熱や悪寒、背中や脇腹の痛み、吐き気・嘔吐などの症状がみられることがあります。
「膀胱炎かな」と思って様子を見ていたところ、発熱などが強くなり、受診すると腎盂腎炎になっていたケースもありました。
高齢者の場合は体力の低下もあるため、全身状態が悪くなってきたときは早めに相談することが大切です。
高齢者の尿路感染症で医療機関へ相談したい症状
排尿症状だけでなく、全身状態も確認しましょう。
- 発熱や強い悪寒がある
- 背中や脇腹に強い痛みがある
- 吐き気や嘔吐があり、水分をとれない
- ぐったりしている
- 急に意識や会話の様子がおかしくなった
- 急に立てなくなった、歩けなくなった
- 血尿がみられる
- 症状が続いている、悪化している
急な意識の変化やぐったりした状態など、明らかに普段と違う場合は、尿路感染症に限定せず早めに医療機関へ相談しましょう。
受診するときに家族が伝えたいこと
高齢者では本人から十分に症状を説明できないこともあります。
家族や介護者が普段との違いを伝えられると、診察時の参考になります。
- いつから症状があるか
- 体温
- トイレへ行く回数の変化
- 排尿時に痛がる様子があるか
- 尿の色や量などの変化
- 食事・水分摂取量
- 歩行状態や元気の変化
- 認知機能や会話の変化
- 尿道カテーテルを使用しているか
- これまで尿路感染症を繰り返しているか
自宅で家族ができること
体調と排尿の変化を記録する
体温、食事、水分摂取量、排尿回数などを記録しておくと、受診時にも説明しやすくなります。
無理のない範囲で水分摂取を確認する
水分不足が気になる場合は、どのくらい飲めているか確認しましょう。
ただし、心不全や腎臓病などで水分制限がある場合もあります。持病がある方は医師からの指示に従ってください。
排泄環境を見直す
トイレまで歩くことが大変で水分を控えている、パッド交換を一人でできないなどの場合は、その人の生活環境を見直してみましょう。
ケアマネジャーがいる場合は、トイレまでの移動、福祉用具、訪問介護など利用できる支援について相談できます。
抗菌薬は医師の指示どおり使用する
尿路感染症で抗菌薬が処方された場合は、症状が良くなったからと自己判断で中止したり、以前余った抗菌薬を使用したりせず、医師から指示された方法で服用しましょう。
尿路感染症を繰り返す場合は原因を確認しましょう
尿路感染症を何度も繰り返している場合は、その都度抗菌薬を使用するだけでなく、繰り返す背景について医療機関へ相談することも大切です。
- 排尿後に尿が残っていないか
- 排尿しにくさがないか
- 水分摂取が極端に少なくなっていないか
- 尿を長時間我慢していないか
- 尿道カテーテルを使用していないか
- 排泄や清潔保持に介助が必要になっていないか
原因によって必要な対応は異なります。繰り返す場合は、かかりつけ医や泌尿器科などに相談してみましょう。
よくあるQ&A
尿が臭いだけでも尿路感染症ですか?
尿の臭いが強いことだけで尿路感染症と判断することはできません。
水分摂取量などによって尿の臭いが変わることもあります。
頻尿、排尿時の痛み、発熱、全身状態の変化など、ほかの症状も合わせて確認しましょう。
熱がなくても尿路感染症のことはありますか?
すべての尿路感染症で高熱が出るとは限りません。
頻尿や排尿時の痛みなどの症状がある場合や、普段と違う体調変化がある場合は、発熱の有無だけで判断せず医療機関へ相談しましょう。
水をたくさん飲めば尿路感染症は治りますか?
水分をとることだけで、すでに起きている尿路感染症を治療できるわけではありません。
尿路感染症が疑われる場合は医療機関を受診し、必要な検査や治療を受けましょう。
また、持病によっては水分量の調整が必要な方もいるため、無理に大量の水分をとることは避けてください。
尿路感染症で急に歩けなくなることはありますか?
感染症などで全身状態が悪化すると、普段より立ったり歩いたりすることが難しくなる場合があります。
ただし、急に歩けなくなる原因には脳卒中、骨折、脱水などさまざまなものがあります。
「尿路感染症だろう」と決めつけず、急な歩行状態の変化がある場合は医療機関へ相談してください。
何科を受診すればいいですか?
まずかかりつけ医へ相談する方法があります。
尿路の病気について詳しい診療科は泌尿器科ですが、発熱や全身状態の悪化などがある場合は、その時点の状態に応じた受診が必要です。
まとめ
高齢者の尿路感染症では、排尿時の痛みや頻尿などの分かりやすい症状だけでなく、「元気がない」「急に歩けない」「話がかみ合わない」など、普段との違いが受診のきっかけになることがあります。
一方で、尿の臭いが強い、急にぼんやりした、転倒したといった変化だけで尿路感染症と決めつけることもできません。
高齢者では症状が分かりにくいからこそ、一つの症状だけを見るのではなく、排尿状態や発熱、食事、水分、意識、活動量など全身の変化を見ることが大切です。
また、水分を控える、パッド交換や入浴が一人では難しくなっているなど、生活上の困りごとが背景にあることもあります。
「水を飲んで」「清潔にして」と伝えるだけでなく、できない理由を確認し、必要に応じて家族やケアマネジャー、訪問看護師などへ相談してみましょう。
参考
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
高齢者の尿路感染症では、排尿時の痛みや頻尿など分かりやすい症状が出ることもありますが、元気がない、食欲が落ちた、急に歩けなくなった、話がかみ合わないなど、普段との違いから気づくこともあります。
ただし、こうした変化だけで尿路感染症と判断することはできません。尿の状態だけでなく、発熱や全身状態、排尿時の症状などを合わせて確認し、気になる変化があれば医療機関へ相談しましょう。