病気・症状
専門家の回答
今回のニュースは「人に効いた」という結果ではない

山口大学などの研究グループは2026年9月9日、ALSの治療薬リルゾールが、アルツハイマー病の一部の特徴を再現したラットの記憶障害を改善したと発表しました。論文は8月25日にJournal of Neuroinflammationで公開されています。1)
研究では、記憶に関わる脳の海馬に、アミロイドβというたんぱく質の小さな塊を注入してモデルを作り、リルゾールを7日間投与しました。記憶・学習の行動試験に加え、脳の細胞や神経同士の接点の変化も調べています。1)
結果は、脳内の環境を支えるグリア細胞の働きが変化し、アミロイドβの除去や神経同士の接点の保護につながる可能性を示しました。ただし、ラットの試験で記憶が改善したことと、親の物忘れや日常生活が改善することは同じではありません。1)
別の病気の薬を調べることには意味がある
既に使われている薬を、別の病気にも使えないか調べる方法を「ドラッグリポジショニング」と呼びます。新たな薬を一から探す方法と合わせて、治療を開発するための研究です。今回も、リルゾールの働きがアルツハイマー病の研究につながると期待されています。1)
一方、「すでに薬として使われている」ことだけでは、別の病気での効果や適切な使い方まで分かりません。対象の患者、投与期間、持病、併用薬などを踏まえ、その病気で利益と不利益を調べる必要があります。
| 段階 | 今回との関係 |
|---|---|
| 細胞・動物で働きを調べる | 今回のラット研究が当てはまる |
| 患者で効果や安全性を調べる | 今回の動物研究だけでは判断できない |
| 診療で使う目的や条件が定まる | ALSの薬としての承認を、そのまま認知症へ当てはめない |
リルゾールは、どんな目的で使われている薬?
日本のリルテック錠50(成分名:リルゾール)の添付文書では、ALSの病勢進展の抑制が効能・効果として記載されています。アルツハイマー病の治療は、そこに記載された効能ではありません。今回の発表が承認を変更したわけでもありません。2)
また、薬には副作用や使用上の注意があります。添付文書には肝機能障害などの注意事項があり、検査も必要になります。「安全性が確認された薬」という紹介は、誰でも副作用なく使えるという意味ではありません。2)
ニュースを見て試してみたいと思っても、自己判断で取り寄せたり、人から譲ってもらった薬を飲んだりせず、診療を受けている医師や薬剤師に確認してください。すでに服用している場合は、薬の名前、量、飲んだ日時、現在の体調を伝えます。
親が「飲んでみたい」と話したら、何を確認する?
新しい研究に希望を持つ気持ちまで否定する必要はありません。「少しでもよくなってほしいよね」と気持ちを受け止めたうえで、記事のどこを見たのか一緒に確認する方法があります。これは声かけの提案であり、この言い方で必ず納得してもらえるというものではありません。
- 見たニュースのURLや画像を残す。販売ページと研究機関の発表を区別する
- 「誰で確かめた研究か」を見る。今回なら、人ではなくラットと確認する
- 現在の薬をやめたり減らしたりするつもりがないか確かめる
- 主治医に「この研究は今の治療に関係しますか」と記事を見せて尋ねる
相談では「新薬は使えますか」だけでなく、「今、一番困るのは夜の落ち着かなさです」「薬を飲んだ後の眠気が気になります」のように、現在の困りごとも伝えてみてください。研究段階の薬の話と、今の生活や治療で見直せることを両方話せます。
家族が不安に感じている場合も、一度で結論を出す必要はありません。本人が期待していることと、確認できていないことを分けてメモにすると、医療者へ相談する際の出発点になります。購入を頼まれたときは、「医師に確認するまでは手配できない」と自分ができる範囲を伝える方法もあります。
よくある疑問
この研究で認知症が治ると分かった?
いいえ。今回分かったのは、特定のモデルのラットでの働きです。人のアルツハイマー病が治ることや、長期の生活機能が保たれることを証明した研究ではありません。1)
人での研究は全くないということ?
今回の記事は、2026年に発表されたラット研究を扱っています。「この研究は動物が対象」と「この薬について人の研究が一切ない」は別の話です。本稿では人の研究全体を評価しておらず、他の試験まで含めた有効性の結論は出していません。
次の受診で聞くには何を持っていく?
ニュースのURLか印刷、今の薬が分かるお薬手帳、具体的に困っていることのメモがあると話しやすくなります。商品名だけでは記事との対応が分からない場合があるため、成分名の「リルゾール」も残しておきます。
研究への期待と、今の薬の判断を分けて考える
今回の発表は、新しい治療を探る研究として意味があります。ただし、親に合う薬が見つかったと判断できる段階ではありません。記事を保存し、「どこまでが研究結果か」「今の治療で相談できることは何か」を確認する材料として使ってみてください。
出典・参考資料
情報確認日:2026年9月14日
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
今回の結果はラットで確認されたもので、人のアルツハイマー病への効果を示したものではありません。今の薬を自己判断で変えず、ニュースとお薬手帳を持って主治医や薬剤師に確認してみてください。