相続・終活
専門家の回答
介護の苦労と、法律上の評価は同じものではない

「自分だけが通った」「仕事を調整して看た」という負担があっても、それだけで自動的に相続分が増える仕組みではありません。寄与分では、亡くなった方の財産を維持・増加させる特別な貢献があったかが問題になります。1)
介護したことを家族に認めてほしい気持ちと、法律上どのような請求ができるかは分けて話すと整理しやすくなります。制度の条件に当てはまらないことが、支えた時間や苦労に意味がなかったということではありません。
寄与分と特別寄与料は、まず立場が違う
| 制度 | 主な対象 | 何を求めるか |
|---|---|---|
| 寄与分 | 相続人である人 | 遺産分割で特別な貢献を考慮すること |
| 特別寄与料 | 相続人ではない一定の親族 | 無償の療養看護等による特別な貢献に応じた金銭の支払い |
寄与分には療養看護のほか、事業への労務や財産上の給付などの形があります。一方、特別寄与料は相続人以外なら誰でも利用できるものではなく、親族関係などの要件があり、相続放棄をした人等は対象から除かれます。1)2)
例えば子の配偶者が介護した場合でも、親族だから必ず一定額が認められるわけではありません。遺言、養子縁組、相続放棄などで立場が変わることもあるため、関係図を用意して確認します。
相談の材料は「どれだけ大変だったか」だけではない
- 介護が必要だった時期と、要介護認定・生活状態が分かる資料
- 自分が行った内容・頻度・期間を記した記録
- 介護サービスや他の家族が担っていた範囲
- 介護に対する報酬や生活費などを受け取っていたか
- 施設・医療費等を支払った場合の領収書と資金の出所
記録は、実際に行ったことと確認できないことを分けて整理します。介護日数に職業介護者の単価を掛ければその額を請求できる、といった単純計算は避けてください。本人の状態、家族関係、他の支援、報酬の有無など個別事情を踏まえた判断になります。
立て替えた費用の精算とは分けて考える
病院代を一時的に立て替え、返してもらう合意があった支出と、無償で続けた介護への評価は同じではありません。領収書は重要な資料ですが、それがあるだけで寄与分や返還額が確定するものではありません。
相談時は「支出したお金」と「行った介護」を別の一覧にします。親のお金で払った費用を自分の負担に含めたり、同じ支出を二重に数えたりしないよう注意してください。
特別寄与料には短い申立期間がある
特別寄与料について家庭裁判所へ申し立てる場合は、相続の開始と相続人を知った時から6か月を経過したとき、または相続開始から1年を経過したときには、申立てができないとされています。家族の話し合いを続けていれば期限を気にしなくてよい、とは考えないでください。2)
この期間を、相続人が主張する寄与分の期限としてそのまま使うことはできません。寄与分や遺産分割にも期間に関する規律があるため、死亡日と経過を伝えて、自分に当てはまる期限を早めに確認します。
相続を待たず、介護する人の暮らしも支える
介護をする人には、まず自分の時間が欲しいという気持ちもあると思います。お金がかかるのは、親の介護だけではありません。介護をする人自身の生活も含めて支えることを、金銭面の支援として考えてほしいと思います。
話し合いでは「親に必要な費用」と「介護を担う人が生活を続けるために困っていること」を、それぞれ出してみましょう。例えば、休める時間を作るために家族が交代する、利用できるサービスと費用を相談する、仕事を減らした人の生活費をどう支えるかを話す、といった方法が考えられます。どれが必要かは、介護している本人の希望を聞いて決めます。
これは、今の負担を家族で調整するための提案です。介護する人の生活費や減った収入が、そのまま寄与分・特別寄与料として認められるという意味ではありません。現在の支援と相続時の法的な評価を分けて考えましょう。
家族だけで決められない場合の相談先
寄与分について相続人間の協議ができない場合は、家庭裁判所の調停・審判の手続きがあります。特別寄与料にも別の調停等の手続きがあり、相手方や必要な資料などが異なります。自分で相続財産から金額を差し引く前に、弁護士等へ相談してください。1)2)
法テラスは相談先の案内を行っており、条件を満たす場合には無料法律相談等も利用できます。相談では、誰が相続人か、いつ亡くなったか、何をどの程度行ったか、何を求めたいかを順に伝えましょう。3)
本人が元気なうちから話せるなら、介護の分担や金銭の扱いを相続だけで帳尻を合わせようとせず、現在の生活の中で整理することも大切です。本人の意思を尊重し、特定の遺言を迫る形にならないようにします。
現在も介護が続いている場合は、相続の話とは別に、今の役割分担を見直すこともできます。
親の介護で兄弟が何もしない…負担が偏ったときの役割分担と話し合い方
出典・参考資料
情報確認日:2026年9月30日。
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
介護をした期間や負担だけで、遺産を多く受け取れると決まるわけではありません。相続人の特別な貢献を考慮する「寄与分」と、相続人ではない親族の一定の貢献に対する「特別寄与料」は別の制度です。まず自分の立場、介護の内容、金銭のやり取りを整理し、期限も含めて法律の専門家へ相談します。