病気・症状
専門家の回答
コレステロールの薬は、何を防ぐために飲むの?
検査の数値が落ち着いていると、「もう薬はいらないのでは」と感じることがあります。脂質異常症の治療では、数値だけでなく、将来の動脈硬化性の病気を防ぐことを考えます。すでに心筋梗塞などを経験した方の再発予防と、まだ起こしていない方の発症予防では、治療の位置づけも異なります。3)
今回のSTAREE試験は、心血管疾患・糖尿病・認知症の既往がない高齢者での予防を調べた研究です。病気の再発を防ぐために飲んでいる親へ、そのまま当てはめて薬の必要性を判断するものではありません。1)

STAREE試験は、70歳以上の9,971人で比較した研究
オーストラリアのSophia Zoungas氏らは、地域で暮らす70歳以上の9,971人を、アトルバスタチン40mgを1日1回飲む群と、見た目が同じ偽薬を飲む群に無作為に分けました。追跡期間の中央値は5.9年。結果は2026年8月に公表されました。1)2)
アトルバスタチンはスタチンと呼ばれる種類の薬です。ここでの40mgは研究で用いられた量であり、日本の高齢者全員に勧める量ではありません。今の薬を増やしたり、他人の薬を使ったりする根拠にはしないでください。
| 評価したこと | アトルバスタチン群 | 偽薬群 | 結果の読み方 |
|---|---|---|---|
| 主要心血管イベント | 6.0% | 8.3% | 発生を抑える効果が認められた |
| 死亡・認知症・持続する身体障害のいずれか | 12.8% | 13.6% | 統計的に明確な差は認められなかった |
主要心血管イベントには、心血管の病気による死亡、死亡に至らない心筋梗塞や脳卒中、冠動脈の血流を改善する治療が含まれます。ハザード比は0.70で、「約30%低下」という報道は相対的な差です。上の発生割合の差は2.3ポイントで、30人に1人などの意味ではありません。1)2)
「障害のない生存期間に差がない」は、薬が無意味という意味?
この試験での「障害のない生存期間」は、死亡せず、認知症や持続する身体障害も生じない期間を指します。単にコレステロール値が下がったか、心筋梗塞を防げたかとは別の評価です。1)
死亡・認知症・持続する身体障害をまとめた評価のハザード比は0.94、95%信頼区間は0.84〜1.05で、明確な差は確認されませんでした。「効果がまったくないと証明された」とも、「認知症を予防できた」とも言えません。また、複数の出来事をまとめた結果から、寿命や認知症への効果を個別に断定することもできません。1)
家族が受け止めたいのは、予防できた出来事と、今回の期間では差が明確でなかった出来事があるということです。「長生きできないなら中止」「心臓によいなら誰でも開始」と一つの結論にまとめず、本人の治療の目的を確認しましょう。
副作用や飲みづらさも、効果と一緒に相談する
試験では重篤な有害事象の割合は両群とも2.7%でしたが、筋骨格系、肝臓・胆道系、糖尿病関連の有害事象はアトルバスタチン群で多く報告されました。有害事象は治療中に起きた好ましくない出来事を指し、すべてが薬のせいと確定した意味ではありません。1)
今飲んでいる薬で気になる症状があるときは、薬名、量、症状が始まった時期を医師や薬剤師へ伝えてください。PMDAの患者向医薬品ガイドも、自己判断での中止や量の加減を避け、重大な副作用を疑う症状には個別の対応が必要と案内しています。症状があるのに次の定期受診まで我慢するのではなく、手元の薬のガイドや処方元の指示を確認して連絡しましょう。4)
主治医に確認したいのは「続けるか」だけでなく「何のためか」
監修者の服薬相談での経験:薬を減らしたいと話す方には、その気持ちを否定せず、服薬によって今の状態が保たれていることも説明し、「一応、先生に確認してみましょうか」と相談につなげていました。
これは服薬全般について共有された経験で、今回の研究の薬を飲んでいた方の事例ではありません。家族も、減らしたい理由を聞いたうえで、今の数値が治療によって保たれている可能性と、今後の見直し方を主治医に確認できます。
「どのくらいになれば減らせるか」という目安を知りたい場合は、数値の目標と、減量を検討する条件を分けて聞きます。目標値に達したことだけで、薬が不要になるとは限りません。病歴や治療の目的も含め、いつ・何を見て判断するのかを確認しましょう。3)
| 聞くこと | 質問の例 |
|---|---|
| 治療の目的 | この薬は初めての病気を防ぐためですか、再発予防ですか |
| 本人のリスク | 持病やこれまでの病歴から、どんな効果を期待していますか |
| 今の薬と量 | 今回の研究の薬と同じですか。今の量にしている理由は何ですか |
| 困りごと | 気になる症状や飲み忘れがある場合、どう相談すればよいですか |
| 次の見直し | 目標値と、減量を検討する条件はそれぞれ何ですか。いつ見直しますか |
お薬手帳を持参すると、別の医療機関の薬や市販薬も含めて確認しやすくなります。本人が何を心配しているのか、薬が増える負担や飲みにくさも伝えましょう。研究の対象に含まれない持病がある場合や生活機能が低下している場合は、その違いを踏まえた相談が必要です。
STAREE試験は、高齢者の予防を考える新しい材料です。心血管イベントを減らした結果と、障害のない生存期間では明確な差がなかった結果を両方確認し、親にとっての目的と負担を主治医と共有してください。
出典・参考資料
- Zoungas Sら「Atorvastatin, Cardiovascular Events, and Disability-free Survival in Older Adults」NEJM(2026年8月28日)
- 欧州心臓病学会「STAREE試験の結果発表」2026年8月29日
- 日本動脈硬化学会「脂質異常症診療のQ&A」
- PMDA「アトルバスタチン 患者向医薬品ガイド」
情報確認日:2026年9月11日
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
薬の意味は、本人の病歴や何を予防するために処方されているかで考えます。STAREE試験では心血管イベントは減りましたが、死亡・認知症・持続する身体障害をまとめた評価では明確な差がありませんでした。この結果だけで中止せず、期待する効果と気になる症状を主治医に確認しましょう。