病気・症状
専門家の回答

筋力が落ちた理由は、年齢だけでは決められない
サルコペニアは、筋肉量が減り、筋力や身体の働きが低下する状態です。加齢に加えて、活動量や栄養状態、病気などが関わります。見た目が細いかどうかだけでは分からず、医療機関では握力や歩行などの身体機能、筋肉量を調べて評価します。2)
「前は手をつかずに立てたのに、今は机につかまる」「買い物の途中で休むことが増えた」。こうした変化は相談のきっかけになります。ただし、痛みで動けない場合と、力が入りにくい場合では、必要な確認が異なります。家族だけでサルコペニアと決めず、いつから何が変わったかを伝えることが大切です。
新研究では、肝臓と筋肉の乳酸のやり取りに着目
国立長寿医療研究センターの研究グループは、肝臓での乳酸処理能力の低下が、筋肉の衰えにつながる仕組みを報告しました。論文は2026年9月4日(米国東海岸時間)にScience Advancesに掲載され、同センターが9月7日に発表しています。1)
老齢マウスでは、肝臓で処理しきれない乳酸が筋肉に蓄積し、細胞内が酸性に傾く「乳酸アシドーシス」が起きていました。研究では、この変化が筋肉のエネルギーをつくる働きなどに影響し、筋力低下に関わることが示されました。人のサルコペニアの筋肉について公開されていた遺伝子の働きのデータも解析していますが、治療効果を患者で確かめた試験ではありません。1)
腎性貧血に使われるHIF-PH阻害薬を老齢マウスに投与すると、乳酸の処理や筋力などの改善が見られました。今回分かったのは治療につながる可能性であり、人の筋力低下にこの薬が使えると確立したわけではありません。1)
| 内容 | 受け止め方 |
|---|---|
| 肝臓と筋肉の乳酸代謝の関係 | 筋肉以外の臓器にも着目する研究 |
| 薬による改善 | 今回の改善は老齢マウスで確認 |
| 家族の生活への応用 | 薬やサプリを自己判断で追加する根拠にはならない |
「乳酸が悪いから運動しない」と受け取らない
乳酸は体の代謝に必要な物質でもあります。この研究は、日常の運動を控えるとサルコペニアを防げる、と示したものではありません。薬の実験結果から、乳酸を減らすと宣伝する食品やサプリの効果も判断できません。1)
親のために何か始めたくなったときは、まず食事や活動の現状を確かめてみてください。食事ではたんぱく質を含む食品だけでなく、食事全体を十分にとれているかも相談のポイントです。持病で食事制限がある方は、自己判断で量を増やさず、医師や管理栄養士に確認します。2)3)
家族がメモしておくと相談しやすい四つの変化
| 場面 | 記録の例 |
|---|---|
| 立ち上がり・歩行 | いつから支えが必要か、休まず歩ける距離に変化があるか |
| 食事・体重 | 食事を残す日、買い物や調理の負担、分かれば体重の推移 |
| 活動 | 外出が減った時期、痛みや転倒への不安があるか |
| 体調・治療 | 入院や病気の後からか、薬の変更があったか |
例として、「足腰が弱った」だけでなく「退院してから買い物に行かなくなり、椅子から立つときに両手を使うようになった」と伝えると、生活の変化が共有しやすくなります。これは相談用の例で、特定の患者の体験談ではありません。
まずはかかりつけ医へ相談し、必要に応じてリハビリ職や管理栄養士の評価につなげてもらいます。訪問看護や通所サービスを利用していれば、普段の動きや食事の状況も共有できます。「運動を増やす」だけでなく、痛み、食べにくさ、外出の手助けなど、続けにくい理由を一緒に整理する形です。
よくある疑問
自宅で筋力テストをさせた方がよい?
転びそうな方に、支えなしの立ち上がりなどを無理に試してもらう必要はありません。普段の安全な動作で分かる変化を伝え、検査は状態に応じて医療者に相談してください。
歩いていれば食事の確認は不要?
歩けることだけでは、筋肉量や栄養の状態は分かりません。食事量が減った、体重が落ちたなどの変化も合わせて伝えます。食事と運動の両方から検討することが大切です。2)
研究の薬を医師に聞いてもよい?
聞いて構いません。記事を見せて「これは人でも効果が確かめられていますか」と尋ねると、現在の治療と研究段階の話を分けて確認できます。今回の結果だけで薬を追加・変更しないでください。
まずは「前と比べてできなくなったこと」を一つ伝える
筋力低下を年齢だけのせいにせず、暮らしの変化を具体的に伝えることが、家族にできる最初の一歩です。新研究は原因や治療を探る手がかりですが、親の原因を診断する検査ではありません。無理な運動や食品の追加に進む前に、本人が困っている動作と食事の状況から相談してみてください。
出典・参考資料
情報確認日:2026年9月14日
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
新研究は主にマウスで仕組みや薬の作用を調べたもので、親の治療をすぐに変える根拠にはなりません。立ち上がりや歩行、食事の変化を記録し、かかりつけ医などに相談することから始めてみてください。