リハビリ・介護予防
専門家の回答
脳トレの成績と、認知症を防げるかは別の問い

計算やパズルを繰り返すと、取り組んだ課題が上手になることがあります。しかし、そのことだけで日常生活の判断力がすべて向上したり、認知症の発症を防げたりするとまではいえません。何を調べた研究なのかを分けて読む必要があります。1)
米国国立老化研究所は、研究で使われた認知トレーニングの結果を、市販の脳トレアプリにも同じように当てはめるだけの十分な根拠はないとしています。「この教材なら予防できる」と決めつけず、本人に合う活動として考えましょう。1)
2026年の20年追跡研究では、特定の訓練で診断リスクの低下が見られた
2026年2月に公表されたACTIVE研究の長期追跡解析では、米国で65歳以上から参加した2,021人の医療保険請求データを用い、アルツハイマー病などの認知症の診断を最長20年間調べました。元の試験では、記憶・推論・処理速度の訓練と、訓練をしない群に無作為に分けています。4)
処理速度の訓練は、画面の視覚情報を短い時間で見分ける課題で、成績に応じて難しさが変わるものでした。最初の訓練後、一定の参加条件を満たした人の一部には、11か月後と35か月後に追加訓練が用意されました。毎日何年もプリントを解き続けた研究ではありません。4)5)
処理速度の訓練に加え、追加訓練を1回以上受けた人では、対照群に比べて診断のハザードが約25%低い結果でした(調整後ハザード比0.75、95%信頼区間0.59〜0.95)。これは相対的な指標で、「100人中25人が認知症にならずに済む」という意味ではありません。記憶・推論訓練には、診断リスクを下げる明確な主効果は認められませんでした。4)
ただし、追加訓練を受けた人についての結果を、処理速度訓練に割り付けられた全員の結果として扱うことはできません。また、評価したのは保険請求記録上の診断であり、全員の発症時点を詳しい診察で判定したものではありません。認知症と診断された方への治療効果を示した研究でもありません。4)
| 確認すること | 今回の研究から言える範囲 |
|---|---|
| 訓練の種類 | 特定の処理速度課題。計算・塗り絵など全般の効果ではない |
| 追加訓練 | 追加訓練を受けた人の結果を区別する |
| 評価した結果 | 医療保険の記録上の認知症診断。課題の点数とは別 |
| ケアポケの教材 | この研究で検証した教材ではなく、同じ予防効果は保証できない |
研究には期待できる点がありますが、「脳トレ」という名前が同じだけで教材の効果を結びつけないことが大切です。家庭で選ぶときは、研究の数値を目標にするより、本人が無理なく取り組めるかを確かめましょう。
家庭では、点数より「やってみたいこと」から選ぶ
親が計算を好むとは限りません。文字を読む、昔の写真を見る、色を選ぶなど、本人が関心を持つことから探してみてください。「認知症にならないためにやりなさい」と課題にするより、どれなら楽しめそうか一緒に選ぶ方法があります。
| 本人の好み | 試す例 | 調整するところ |
|---|---|---|
| 数字が好き | 簡単な計算や数のパズル | 問題数や難しさを減らせるか |
| 絵や色が好き | 塗り絵、絵の違い探し | 絵や線が見やすいか、手が疲れないか |
| 話すのが好き | 写真を見ながら話す | 思い出すことを試験にしない |
| 声に出すのが好き | 短い文章の音読 | 好きな内容か、長すぎないか |
この表は効果の順位ではありません。「誰にでも一番よい脳トレ」を決めるためではなく、本人が取り組みやすい条件を探すための例です。ケアポケの脳トレ教材を使う場合も同じで、できた枚数を増やすことを目標にしなくて構いません。
できない理由を、認知機能だけのせいにしない
文字が小さくて見えない、説明が聞こえない、鉛筆を持つ手が痛いなど、取り組みにくい理由も考えられます。問題を繰り返し説明する前に、明るさ・文字の大きさ・姿勢・道具を一緒に確かめてください。
脳トレで間違えることを怖がる方には、私も一緒に悩むように関わり、ヒントを出していました。すぐに答えを教えるのではなく、少しでも「自分で答えた」と思えるような関わりを心がけていました。
家族が一緒に取り組むときも、答えを急がせず、どこで困っているかを見ながらヒントを出す方法があります。正解を代わりに言うことや、間違いを細かく指摘することばかりにならないよう、本人が考える時間を残してみてください。
疲れた・嫌だという反応があれば、やり方を変える
初めから長時間取り組ませず、本人がやめたいと言える区切りを作ります。疲れや痛み、いら立ちが出たら、枚数を終えるために続けず休みましょう。今日はやらないという選択があっても構いません。
家族が毎日付き添うのが難しい場合も、無理な予定を立てる必要はありません。本人が好きなこと、手伝いが必要な部分をデイサービスなどの担当者へ伝え、活動の選択肢を相談することもできます。
脳トレだけに偏らず、身体と暮らし全体を見直す
認知機能の健康には、運動、食事、人との交流、生活習慣病の管理なども関わります。机の上の課題だけで一日を埋めず、本人に合う活動と休息を組み合わせて考えます。2)3)
歩行に不安がある人に、歩きながら難しい問題を解かせる必要はありません。身体を動かす活動は、安全にできる姿勢や負荷を医師・リハビリ職と確認してください。楽しむ活動と医学的な訓練の指示は区別して扱います。
よくある質問
脳トレの点数が下がったら認知症ですか?
点数だけで診断はできません。疲れや見えにくさなど、その日の条件も確認します。薬や支払いなど生活上の困りごとも増えているなら、具体的な変化を医療機関へ相談してください。
親が嫌がるなら別の活動でもよいですか?
本人が関心を持つ会話や趣味などを一緒に探せます。脳トレをしないことだけで、認知症になると決めつけないでください。
脳トレを取り入れるなら、「予防のために頑張らせる」より、本人が楽しめるか、暮らしの負担になっていないかを見てください。効果を大きく見せずに選べることが、長く付き合える活動を探す助けになります。
参考
- 米国国立老化研究所「Cognitive Health and Older Adults」
- 国立長寿医療研究センター「認知症の予防」
- 国立長寿医療研究センター「認知症予防のQ&A」
- Coe NBら「Impact of cognitive training on claims-based diagnosed dementia over 20 years: evidence from the ACTIVE study」(2026年)
- NIH「Cognitive speed training over weeks may delay the diagnosis of dementia over decades」(2026年2月10日)
情報確認日:2026年9月11日
この記事を監修した人
野崎理香 / 正看護師
正看護師として、がん専門センターおよびリハビリ病院に勤務後、訪問看護の現場に従事。
日々のケアを通じて、「本当は聞きたいことがあるのに、時間に追われて質問できない」という利用者様の声に直面し、その課題を解決するため、介護情報サービス「ケアポケ」の立ち上げに参画。
現場での実体験をもとに、看護や在宅ケアに関する実践的な情報提供と記事の監修に取り組む。
脳トレの課題が上手になることと、認知症を防げることは同じではありません。効果を決めつけず、本人の好みや見え方、疲れに合わせて選びましょう。2026年の長期追跡研究で結果が出たのは特定の訓練と追加訓練の組み合わせで、市販の教材全般の効果ではありません。嫌がる課題を無理に続ける必要はありません。